SEARCHING 2003/8/30 with KEB DARGE


 これは音楽に限らずあらゆるジャンルにおいてもいえることだと思われるが、その世界で一流と認められる人物は常に「変わること」と「変わらないこと」の両面を求められる。その根幹や基本姿勢は変わらず、ひとつの確固とした信念を持ち続けた上で、表面に現れる枝葉は意外性と多様性に満ちていなければならない。約1年ぶりに超一流のDJ、ケブ・ダージの来日である。

  通常青山FAIにて第4金曜日に開催されているSEARCHINGは、19:30-23:00という時間帯のため、年に数回 "SEARCHING ALLNIGHTERS" と称してスケールアップし、祭的な興奮とより充実した内容の提供を試みている。今回はスペシャルゲストにケブ・ダージを迎えるため、より多くの方々に体験してもらおうと場所と曜日を移動、渋谷のLa Fabriqueにて8月の最終土曜日の開催を実現させた。

 La Fabriqueの通常のDJブースは梯子を上った高い位置にゴンドラのように設置してあるため、開催2日前より綿密なリハーサルのもと、観客とほぼ同じ視点の高さ、かつフロアの正面になる位置にDJブースを特設した。ケブは音楽、レコード、彼自身の動き、観客とのコミュニケートなど、様々な要素でフロアを盛り上げるDJである。そのような彼のプレイの性格を考慮した上での特設だったが、これがあたかもライブステージのようになり、DJと観客の一体感を生み出すかっこうの演出となった。

  開場の22:30から早くも観客が集まり始め、DJがスタートした23:00には期待感や解放感がない交ぜになったポジティブな雰囲気にフロアが満たされ始めた。元来SEARCHINGは小〜中箱のレギュラーイヴェントにありがちな、観客に「〜しなければ」という責任感や義務感を感じさせるイヴェントではない。DJはあらん限りの力量を発揮してThe Real Stuffをプレイし、観客には各人が各人なりの動機と流儀で楽しんでいただき、スタッフもそれぞれの流儀でフロアのケアにあたる。

 この日もレギュラーSEARCHINGと変わらない雰囲気のもと、レジデンツのリンカン、尾川、黒田がフロアを煽り立てた。マイクパフォーマンスを交えつつクラシックを嫌味なく聴かせるリンカン、独自の価値観に基づいた選曲でフロアのギアを徐々に上げていく尾川、的を射た鋭い選曲と展開で聴衆〜ダンサーの正気を奪ってゆく黒田。ディープファンクのアンセムともいえる意義深い一曲 Mickey & The Soul Generationの "How Good Is Good" というバトンを受け取り、いよいよケブ・ダージの登場である。彼が登場した1:30にはフロアは300人を越える観客で隙間がないほど埋まり、まさに爆発寸前の様を呈していた。彼がターンテーブルの前に立つだけで地鳴のような歓声が起きる。一曲目のRoy Ayersによる未発表曲のアセテートから怒涛のショウタイムが始まった。

 フロアはまるで嵐の海のようである。あまりの密度に体を縦に揺らすことしかできない観客が波になっている。一曲ごとに嬌声が響き、溜息が漏れる。ソウル、ファンク、そして若干の新譜を交えたプレイでケブは観客を畳み込み、肩透かしを食らわせ、押し込め、解放し、ネクストレベルへといざなう。ときおり華麗で決まり過ぎなくらい決まった、目がくらむほどカッコイイ、ダンサーとしてのケブが現れる。かと思えば「おじいちゃんネタ」でおどけた表情を見せて皆を笑わせる。誰もが彼の術中にはまり、誰もが彼の「華」に酔う。

  Highlighters Band、Lil Lavair & Fabulous Jades、Soul Drifter、TMG's、Black Exotics、Slim & The Soulful Saints、Herman Hitson、Sandi & Matues、Timeless Legend、BAB、Delegates Of Soul、Fabulous Playmates、Bobby Reed、Flowers、Rokk。ただ音楽が鳴っているだけではなく、どの曲にも血が通っていて、ケブの魂が入っている。30年間ソウル・ミュージックとともに生きてきた男の覚悟と気合と愛情がプレイに滲み出ていて、それがフロアに伝染してゆく。皆我を忘れて踊り狂い、呆けたように聴き入り、でも笑顔は絶えない。「気持ち良い」の次元を遥かに超えた、心身ともに揺さぶられる快感を得られる体験はそうそうできるものではない。しかもイヴェントが終了した5:00過ぎまでそのテンションは保たれ、フロアの熱気と渦が最後の曲 Bobby Reedの "The Time Is Right For Love" でたおやかに昇華されていった様には感動を禁じ得なかった。

 ケブ自身「一番はソウル、そして次にファンク」と公言している通り、年々プレイにおける比重は変化してきているように感じられる。またソウルのなかでも特にモダンソウルに対する意欲は並大抵ではなく、新たな地平を切り拓いている最中のようである。さすがに近年は彼のプレイを聴いて「DJとしてのターンテーブル技術が云々」と本質とはかけ離れた的外れな意見を言う人はいないようだが、ファンクをもっと聴きたかった人、もっと違うタイプのソウルを聴きたかった人、彼が所謂打ち込みの新譜をプレイしたことに戸惑った人など、いろいろだったであろう。ただ彼が30年間変わらず持ち続けている音楽に対する情熱や意欲、またその結果身に付いた造詣の深さ、そして「音楽で踊る」という世界に長く身を置いてきた彼が提示し示唆するダンスミュージックの奥深さ。これらは確実にその場にいた人達に伝わり、刺激したはずである。だからこそ、の熱気と狂喜と笑顔だったのである。ケブ・ダージはやはり超一流のDJだった。

  最後に何よりも当日ご来場くださった皆様に深く感謝します。レギュラーのSEARCHINGに馴染みのある方々も多かったようですが、半数近くはSEARCHING初体験で、ケブ・ダージのプレイに期待してご来場いただいたことと思います。これを機会にレギュラーのSEARCHINGにもぜひ遊びにきてください。またLa Fabriqueスタッフの、当方のイヴェントコンセプトに対する理解と全面的なサポートに深く感謝します。

Text : YUSUKE OGAWA