SEARCHING 2004/1/23 with JAZZMAN GERALD


 GERALD SHORTは多彩な顔を持つ。世界有数のコレクターであり、JAZZMAN RECORDSのディーラーであり、JAZZMAN/FUNK45/STARK REALITYのレーベル・オーナーであり....。自身「今までの15年間、1年365日、ただ1日の休みもなくレコードに関わってきた。レコード、レコード、レコードの毎日だった」と語っているとおり、今の彼の多彩な活動の根幹を成しているのは音楽、とりわけレコードというフォーマットに対する執着と愛情である。そうして培われた正確な選球眼、膨大なコレクション、隙のない知識、幅広いコネクションには世界規模で絶大な信頼がある。コレクター、ディーラー、レーベル・オーナーとしての彼は日本にいても知ることができるが、そんな「凄い男」が果たしてどんなDJプレイをするのか、約3年ぶりとなる日本におけるプレイには必然的に興味と期待が高まる。

 JAZZMANレーベルを興して間もない前回の来日とは注目度が違う。この間たゆみなく再発、新録のリリースを続け、とりわけ"TEXAS FUNK"や"MIDWEST FUNK"といった大作もリリースして、日本における知名度は飛躍的に上がった。今回の来日も昨年末にリリースされた"MIDWEST FUNK"のプロモーションを兼ねてのことで、しかも"JAZZMAN GERALD in SEARCHING"が彼からの申し出を端に実現したことからも日本における「JAZZMAN人気」が窺える。

 JAZZMAN GERALDがゲストDJであることはもとより、SEARCHINGがLa Fabriqueに場所を移してオールナイト化しての第1回ということもあり、緊張や期待がないまぜとなった妙なテンションの高さがスタートの23:00からフロアに漂っていた。早々とお客さんが入り始め、皆思い思いの場所に陣取り、一杯飲みながらのお喋りや踊りに耽り始める。いつものSEARCHINGの風景である。ただ今回はブースの奥にいるGERALDをチラチラと気にしている人もいる。というのも、もちろん彼を一目見ておこうというのもあるだろうが、GERALD本人は「自分の出番まではとにかくレコード」と決めているかのように、レジデンツのレコード・ボックスを覗いたり、自分のレコード・ボックスを見せたりしているのだ。いやはや、なんとも、さすが、である。

 リンカン→尾川→黒田と、SEARCHINGのレジデンツがそれぞれの持ち味と手口でフロアを刺激してゆく。マイク・パフォーマンスにますます磨きがかかったリンカンがニーズに応えるツボを突く選曲で聴衆を解放し、尾川が独自のスタイルとセンスでフロアを確実に嵌め、黒田が鋭角かつ的確な選曲で走り出した聴衆を更なる高みへと連れ去って行く。200人を越える人たちがフロアで踊り、飲み、叫んでいる。 ―JAZZMANはまだか?― 期待と興奮が最高潮に達した3:00、フロアの温度が最も高い時間に、ついにJAZZMAN GERALDの登場である。

 ビールと巻きタバコを片手に、次々とレコードを換えてゆくGERALD。あくまで淡々と、黙々と、クールなプレイに徹している。Tony AlvonやBig Bo Thomas、またRay FrazierといったクラシックスにMasters、Soul Smoochers、Shades Of Black、Reginald-Milton、Wallace Brothersといった超弩級が顔を出す。またまさにUK好みな「ぎりぎり」のブーガルーやR&Bまで、なんの躊躇いもなくターン・テーブルにのせてゆく。その守備範囲の広さには目を見張るばかりだが、しかし不思議と一本筋が通っている。「レアなレコードをたくさん扱うけど、欲しいもの全部を手元におけるわけじゃないんだ。妙な話に聞こえるかもしれないけれど、レコードって高いだろ?だから自分じゃ全部は買えないんだ。泣く泣く売っているものもたくさんあるよ。そうしないと回らないからね。だから手元には本当に好きなものしか置かないよ」。なるほど。だからこそ一本筋が通っていて、何をプレイしてもGERALDの匂いがするのだ。各ジャンルから自分の好みのものを拾い上げてきて、抽出し、自身の内部で「JAZZMAN GERALD」というジャンルを創り出しているのである。自身の好みを良く知る、冷静な耳と判断力を持っている者のみができることである。そこには何ものにもおもねない潔さと強さがある。

 「好きなものを好きに回す」彼の姿勢に、しかしフロアの反応は鋭い。曲単位での反応はもとより、「JAZZMAN GERALD」というジャンルを楽しんでいる。一曲一曲がどんどん抽象化され、共通の言語のごとくフロアに広がってゆく。プレイするほうも聴くほうも等身大で、「そこにいること」自体を存分に楽しんでいる。約2時間、フロアは「GERALDの匂い」と音楽に対する健全な喜びに満たされていた。

 今回のGERALDのプレイに対する期待は様々あっただろう。コンピレーションや再発などで見知っている、なかなかオリジナルでは耳にすることのできないレアな45sの披露や、まだ誰も知らないようなメガ・スタッフの披露。または幅広い選曲による、華やかでダンサブルなプレイ。ある意味期待に沿っただろうし、ある意味期待を裏切っただろう。「ロンドンでDJをすることはあまりない。まあ、たまにかな。DJをするのは他のヨーロッパ諸国に呼ばれて行ってするのがほとんどだよ」。この発言からも分かるとおり、彼の表現活動においてDJはあまり重要な手段ではないようだ。ただDJを通してだからこそ感じられる、生身のJAZZMAN GERALDがそこにいたことの意義は大きい。「時空の共有」で得られるものがいかに大切か、改めて思い知った。今後の彼の活動に更なる期待を。

Text : YUSUKE OGAWA