A DEFINITION OF THE DEEP FUNK SOUND

 イギリスはいつの時代もアメリカのブラックミュージックに魅了されてきた。ノーザンソウルについて聞いたことのある人であれば、それがどれほど奥深い世界であるか分かってもらえるだろう。ノーザンソウルは、当時の最新であるソウルやR&Bをプレイしていた1960年代のモッズ・クラブにその端を認められる。1970年代に入りシーンが大きくなるにつれ、JACKIE WILSONやGIL SCOTT HERONなどの良質なブラックミュージックをプレイすることに加え、DJは自身の個性をより強く押し出し名声を得るために、新たな音源を求めて自らアメリカに赴き、マイナーなレーベルの45sを発掘し始めた。

 ディープファンクの到来は、ノーザンソウル・シーンでDJ/ダンサーとしてその地位を確立したKEB DARGEによってもたらされたことに疑いの余地はない。ディープファンク・ナイトは1995年ころ、KEB、SNOWBOY、LINCOLNによって、ロンドンの中心部で産声をあげた。当時イギリスではレアグルーヴのムーヴメントも下火となり、数少ないファンク・イヴェントにおいても、フロアにどんな音楽がかかっているのか頓着しない聴衆に向けて、凡庸なクラシックが流されていただけだった。しかしディープファンクは当時のそのようなシーンとは全く違うものだった。ときにフロアの起爆剤となりうるJBやTHE METERSといったクラシックを交えつつも、知られざるファンクの45sをプレイしてダンサーたちを熱狂させた。ノーザンソウルのシーンを体験したKEBは、ディープファンクを確立させるために何が必要かを知っていた。わずか3分足らずの「生」で「直」で「純粋」な、刺激の強いブラック・ミュージック。1960年代後半から1970年代前半のファンク45sがまさにそれだった。それは当時主流となりつつあった、作り込まれた長尺のクラブトラックとは全く対照的だった。まだファンクの45sを収集したりプレイしたりする人が全くいない中KEB達3人は、それがすぐに注目を浴びるシーンではないと理解しつつも確かな信念を持ち続けた。そうして変わらぬ信念とその音楽の魅力はやがて多くの人々を惹きつけ、巻き込み、ディープファンクは現代に蘇ったのである。

 一般的な人々にとって「ファンキー・ミュージック」とはおそらく、ディスコ的要素の強い1970年代後半以降の曲や、現代のR&Bやヒップ・ホップ、またはあまたのコンピレーションに収録されている、サンプリング・ソースの入った曲や、耳良いクラブ・トラックなどの印象があるだろう。しかし、それらはディープファンクのファンにとっては踊るための曲ではないのである。ディープファンクにおいてはまず暴力的なまでに刺激のある音楽があり、そしてダンスがある。「踊る」のではなく「踊らずにはいられない」のがディープファンクなのだ。どの曲が良くてどの曲が悪いか、という判断は安易にはできないし、基準を決めることも容易ではない。もちろん個人差もあるだろう。音は良いか、曲は良いか、アレンジは良いか、ヴォーカルは良いか、これ見よがしなギターのソロは入っていないか、ドープか、ヘヴィか、曲の展開はエキサイティングか、等々...。しかし総じていうならば、ディープ・ファンクにおいての評価はその曲がダンサブルかどうかに大きな比重が置かれる。「音楽」と「ダンス」。これが第一義であり、同時に全てであるといっても過言ではないだろう。ファッションやイメージやルールはいらないのである。余計な要素の入り込む余地のないその純粋な成り立ち。ディープファンクが常に他を圧倒してきた理由はここにある。

 ディープファンク・シーンにおいてプレイされる曲の多くは、当時結成されたばかりのバンドやローカルでのみ名前を知られたミュージシャンよって録音されたものである。レコードは500枚ほどプレスされ、地元ではある程度成功したにも関わらず、配給や契約やプロモーションなどさまざまな理由でその後活躍することなく忘れ去られてしまったミュージシャンたちである。メジャーなレーベルではあり得ない「やりたいことを好きなように精一杯やっている」的なオリジナリティに溢れた斬新で熱い音楽は、一度は時代の波に呑まれて葬り去られたように見えたが、ディープファンクの台頭によって再び脚光を浴びたのである。いや、それらのレコードが当時つくられていたからこそ、現代にディープファンク・シーンがあるのだ。だからこそDJたちはそのようなレコードを大切にする。まだ誰にも知られていないようなレコードをカヴァーアップ(アーティスト名や曲名などを隠す行為)したり、マイクパフォーマンスによってレコードを紹介して聴衆を煽動したりする。まだ情報が知られていない、いわゆるニューディスカヴァリーがプレイされると、DJブースの周りに人が集まるといった光景がしばしば見られるのも、いかにディープファンク・シーンにおいてレコードが大切にされているかの顕れだろう。

 「ディープファンクとは何か?」。この問いに対して明確な答えを出すことは難しい。しかし前述した通り、「『生』で『直』で『純粋』なブラックミュージック」と「ダンス」がそのキーワードであることは確かである。言葉による定義や理解が難しいなら、実際にディープファンクを体験してみるのが良いだろう。音源としてはKEB DARGEの選曲による、エポックメイキングとして不動の地位にある"Legendary Deep Funk"シリーズや、KEBがJOSH DAVIES(DJ SHADOW)やKENNY "DOPE" GONZALES、PETE ROCK等と監修した"Funk Spectrum"シリーズ、またアメリカ西海岸の新興レーベルSTONES THROWからリリースされた"Funky 16 Corners"、JAZZMANによる"Texas Funk"などのコンピレーションがある。またSOUL FIREやTIMMION、DAPTONEといった現行のレーベルが、新録音の良質なファンクを昔ながらの45sとしてリリースしている。しかし何より、実際にディープファンクのイヴェントに足を運び、フロアに立ち、大音量にさらされ、他のダンサーたちに混ざって踊ってみることをお勧めする。何がディープファンクであり、なぜこれほど熱く支持されるのかが、身をもって理解できるだろう。

 音楽がコマーシャルな世界のなか消耗品として消化されていく現代において、ディープファンクは人々のソウルに光を灯す炎なのである。

Text : LINCOLN / Translation : SANAE, YUSUKE OGAWA
Photo : RYO KITAAKI